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光る窓のテト  小さなすずめのくれた大きな愛の物語
 僕は三匹の兄弟の末っ子として生まれた小さなすずめ。
 お兄ちゃん達と暖かな巣の中でお父さんお母さんが持ってくるごはんをまっていた。
 体の小さな僕はお兄ちゃん達に負けてご飯をもらうのはいつも一番最後、でもとても幸せだった。

 ある日大きな音がして僕達の巣が壊された、人間達が僕達の住んでいた古い家を壊し始めたのだ。
 上のお兄ちゃんは小さな羽根で飛び出した、でも上手く飛べず道路に落ちた、下のお兄ちゃんは軒の上に落ちて転がり駐車場まで落ちてしまった。
 僕はまだ羽が生えてなかったので飛び出せなかった、人間が巣ごと掴んでゴミ袋に入れた、「お母さんお母さん」僕は必死に叫んだ、近くの電線の上でお父さんとお母さんが泣きながら僕たちを呼んでいるのが聞こえた。
 その時大きな手がごみの中から僕をつかみ出し両手で覆って小さな箱の中に入れた、そこには道に落ちたお兄ちゃん達がいた。
 お兄ちゃん達も恐くて声が出せずがたがた震えていた。
 どれくらい経っただろう、僕達は暗い箱の中で恐怖と空腹に耐えていた。
 車でどこかに連れて行かれるのが分かった、しばらく車で走るとどこかへ着いた様だった。
 箱が開きまぶしい光が飛び込んで来て何も見えなかった、大きな手がまた僕を掴んで柔らかい巣の様な所においた。
 真新しい巣かごに白い布が幾重にも敷かれふかふかだったが僕は元の巣の方がずっといいと思った、お兄ちゃん達も移されて来て三人は身体を寄せ合っていた。

 殺されると思っていたから忘れていたけど僕達はとても空腹だった。
 僕たちを連れてきた人はニコニコしながら「お腹が空いただろう、すぐご飯作るからね」と言った。
 人の言葉は分からないけれどそう言ったように思った。
 僕が思った通りその人はご飯を持ってきた、そして『ヂュ、ヂュ』と下手なすずめの鳴声を真似しながらご飯を差し出した。
 お兄ちゃん達は恐がって巣かごの奥に潜り込んでいたが僕は恐いとは思わなかった、それにとてもお腹が空いていた。
 僕が「ピー」と鳴いて口を開けるとお母さんがしてくれたようにご飯を入れてくれた、お母さんのご飯とは違う味だったけどお腹が空いていたのでとても美味しかった。
 お兄ちゃん達もそれを見て「ピー」と鳴いて口を開けた、その人は「良い子だ良い子だ、たくさん食べろ」そう言ったように思った。
 僕は初めてお兄ちゃん達より先にご飯を食べた、ちょっと得意だった。
 僕はぼんやりとこの人の言葉が分かるようになった、この人をお父さんのようだと思った、お兄ちゃん達は少し恐がっていたけれど僕はとても優しいと感じていた、だから僕はこの人をお父さんと呼ぶことにした。

 お父さんは仕事場に僕たちを連れて行った、日に何度もご飯を食べさせてくれた、おかげで皆どんどん大きくなってお兄ちゃん達はもう少し飛べるようになった。
 あるとても暑い夜だったいつも一緒に寝ているお兄ちゃん達は暑いと言って鳥かごを出て外で眠った、お父さんは心配して巣かごのヒーターを切った。
 ところが明け方になってどんどん寒くなり僕は巣の中でたった一人で震えていた、僕はだんだん意識が薄れてゆくのが分かった。
 「坊や目を覚ましなさい」お母さんの声がした、「眠ってはだめ、おきなさい」そう言われた。
 「お母さんどこにいるの、会いたいよ」
 「お前が元気で空を飛べるようになれば会える」
 「早く会いたいよ」
 「大きくなって空へおいで、西の空の光る所にいるからすぐに分かる、だから頑張りなさい」
 「わかった、僕頑張るよ」
 その時ドクンドクンと音がして僕の体の中に力が流れ込んで来るのが分かった、僕はお父さんの素肌の胸の上に乗せられ両手で覆われていた。
 冷たかった僕の体がどんどん温かくなって僕は小さく声を上げた、お父さんは手を開いて僕を見ると立ち上がろうとする僕に「頑張れ、良かった、頑張れ」そう言って手の平の上に乗せた、その時から僕はお父さんの手の平で眠るのがとても好きになった。

 少しだけど飛べるようになったお兄ちゃん達は部屋の中を右へ左へと飛び回る、僕はそのお兄ちゃん達を追いかけてピョンピョン跳ねながら羽ばたいては見るけれど少しも身体は浮き上がってはくれない、いつも下からお兄ちゃん達を見上げすごいなと思っていた。
 お父さんは今日も仕事が終わると僕たちにご飯を食べさせ、しばらく遊んでくれた。
 お兄ちゃん達も今はもう恐がらず、あらそってご飯を食べたりお父さんの頭や手に乗ったりしていた。
 その夜も僕たちはお父さんといっぱい遊んでから巣に戻された。
 僕は何かを感じ夜中に目を覚ました、ふとお父さんを見ると机に向かい僕が今までに見た事の無いような悲しい顔をして小さな声で何かをつぶやいていた。
 僕はお父さんの笑顔が見たくて声をかけようとした、でも声が出せなかった、お父さんの目から涙がポロリと落ちるのを見たからだった。
 それは長く辛い夜だった。

 次の朝僕はお父さんの声で目を覚ました、お父さんはいつものように笑顔で楽しそうに僕たちに話しかけてくれた、僕はホッとしてゆうべの事が夢のように感じた。
 でも夜になると僕たちを寝かしつけた後一人で机に向かい悲しそうな顔で時間を過ごすお父さんを見て、僕はとても辛かった。
 僕は夜お父さんが寝てから一人巣を抜け出して窓の所へ行き「お母さん、お母さん、お父さんを助けて」そう祈った。
 お母さんがいったように西の空がぼんやりと明るくなり白い服の女の人が近付いて来た、僕はその優しそうな人に言った「あなたはお母さんなの」、でもその人は微笑みながら静かに首を振った、そして「テト、お前の願い聞きましたよ」そう言った。
 「テトって僕のこと、お父さんはピー子って呼んでるよ、僕男なのに」その人は笑いながら「今日お前はテトと呼ばれますよ」と言った。
 「お前の願いはあの方に届きましたきっと叶いますよ」
 「あの方って誰、僕の本当のお父さんの事」
 「本当のお父さん、そうかもしれませんね」そう言ってその人は微笑んだ。
 「それよりお前はお父さんの力になりなさい、お前はお父さんの喜びだから」
 「どうすればいいの」
 「今のままで良い、でもしばらくの間お前の翼をもらいます」
 「僕羽がなくなっちゃうの、うん、でもかまわないよ」
 「しんぱいしなくても羽はなくならないわ、飛ぶ力を少しもらうのよ、生贄としてね、だからお前はしばらくの間空へは帰れなくなる」
 「そんなのかまわない、僕平気だよ、お父さんの笑顔見てれば幸せだもん」
 「テト、お前は本当に優しいね、お父さんとの時間を大切にしなさい、そして何があってもお父さんを憎んではいけないよ」
 「僕そんな事しないもん」
 「そうね、テト、お前はきっとそうだろうね」そう言うとその人はまるで風のように僕の身体を抜けて行った、その時翼から力が抜けてゆくのを感じた、僕は羽ばたいてみた上手く羽ばたけない、でも僕は羽ばたけなくなってる事よりこれが夢でなかった事の方が嬉しかった。

 夕方食事をしながらふいにお父さんが僕の名前の事を言い出した。
 「この子に名前付けようと思うんだ、皆も何か考えてみて」
 「やっぱり名前があったほうが良いよね」娘さんが言った。
 「ピー子ってのはどうだろう」お父さんが言った。
 「ありきたりでつまらないわ」奥さんが即座に反対した。
 「テト」娘さんが言った。
 「ピー子よりは良いわね、歩くのもテトテトって感じだから」
 「風の谷のナウシカ、のキツネリスからもらったのよ」
 「そうか、じゃあテトにしよう」
 どうやら僕の名前はあの白い服の女の人が言ったようにテトになったようだ。

 朝僕が目を覚ますとお兄ちゃん達がいない、僕は大声で何度も呼んだ、その声にお父さんが気付きカーテンの後ろや机の下などを慌てて探した、そして西の窓のカーテンを開くと窓が少し開いていた。
 お父さんは慌てて窓を開き「ヂュ、ヂュ」と下手な鳴声を出して呼んだ。
 お兄ちゃん達は窓のすぐそばの庭の木にいてすぐ部屋に飛び込んできた、「この脱走すずめが」お父さんは笑いながらそう言ってご飯を作りに下へ降りていった。

 それからお父さんはお兄ちゃん達が自由に外に行ける様に窓を開け放したままでいた、お兄ちゃん達はお腹が空くと帰ってくる、そしてその後僕と遊んでくれた、部屋の外の事を色々話してくれた。
 僕は少し羨ましいと思うこともあったが、それよりお父さんを独り占め出来る事の方が嬉しかった。
 しばらくすると上のお兄ちゃんは彼女が出来たようであまり帰って来なくなった、でも下のお兄ちゃんは一日に何度も帰って来た、夜は一緒に眠る事もあった。
 下のお兄ちゃんは帰ってくると相撲をとろうとお父さんのTシャツの上に僕を誘う、僕は力いっぱいぶつかるけどいつも押し出されてしまう。
 「まだまだだな」お兄ちゃんは得意顔で言うんだ、悔しいから突っついてやると「こらー、突っつきは反則だぞ」とおこられた。
 そんな下のお兄ちゃんもだんだん部屋を離れる事が多くなった、でも帰って来ると必ず相撲をとってくれた、僕はますますお父さんと遊ぶ時間が多くなった。

 お父さんは良く僕を仕事場に連れて行った、僕が仕事を手伝おうとすると「テト邪魔するな」と言う、僕がふてくされて机の奥に隠れると「テトおいで、テト」そう言って手の平を出す、僕はそこに飛び乗るとぺたんとお腹をつけて首を曲げ、お父さんの親指を枕にしてお昼寝をするんだ、それがとても嬉しかった。
 でもけんかする事もあった。
 お父さんを部屋で待っていると階段を昇る足音が聞こえるので急いでドアのところまで出迎えに行った、するといきなりドアが開き僕は跳ね飛ばされて床を二・三度転がった、それを見て「ごめんごめん、そんな所にいたのか」そう言いながら笑い転げている、悔しいから足を突付いてやったんだ。
 お父さんは「悪かった、悪かった」と笑いながら手の平を出して来る、僕がそっぽを向いて逃げると「こら待て」と言って僕を無理矢理手の平に乗せそっと背中を撫でてくれる、だからもう許してやるんだ。

 僕はこんな楽しい日がずっと続いて欲しいと思った。
 でも夜中に目を覚ますと机に向かい悲しそうにしているお父さんを見てしまうのだ。
 その夜も僕は巣を抜け出して机の下からお父さんを見ていた。
 「私が何をしたと言うんだ、私に罪があると言うのならその罪を教えてくれ」つぶやく様にお父さんが言った。
 「私はただ百年安心して住める家を作ろうとしているだけだ、何も不正などしていない、だのにお前らは『わざと手間のかかる事をしてもうけようとしている』と言う、あげくは『安物の材料を使って客をだましている』と、いつ私がそんな事をした、それは皆お前たちのやっている事じゃないか、家を見れば分かる事だ、それなのにちゃんと調べもしないで『おっさんあんたは大工の面汚しだこの町から出て行ってくれ』だと、昨日まで『いい仕事してる』って褒めてたやつらまでが手の平返すように皆でありもしない噂を言う」お父さんの声はだんだん大きくなってくる。
 「お前らに客が来ないのは私のせいじゃない、全てお前ら自身のせいじゃないか、『生きていて恥かしくないのか』だって、その言葉そっくりそのままお前らに返してやる」お父さんは大声を出して両手の拳でドンと机をたたいた。
 僕は驚いて思わず「ピー」と声を上げてしまった。
 お父さんは足元を覗き込んで「テト、どうしたそんな所で、ごめんごめん驚かせたね」そう言って手を差し出した。
 お父さんは僕を顔の近くに寄せて「テト、お前は本当にかわいいね、私はお前がいればいい、もうこんな町は出て別の町で働こう私がいなくなれば家族もいじめられる事はなくなる」お父さんはそう言いながら僕の背中を指先でそっと何度も何度も撫でてくれた、その度にお父さんの悲しみが僕の中に流れ込んで来て、僕はお父さんに「元気を出して」とくり返し言った、お父さんはニコニコして「そうかそうか」とうなづいた。

 今日もお父さんは僕と少し遊んでから仕事に出かけた。
 「この仕事が最後の仕事だ、これが終わったらもうこの町でする仕事はない、どこか良い町を探そうな」そう言って寂しそうに笑ってた。
 僕は西の窓の下に行き「お母さんお母さん、お願いがある」そう呼んでみた、すると「あんなやつの言う事を信じたってだめさ」くぐもった声が聞こえた、「誰、どこにいるの」僕がそう言うと窓の隅から赤い舌を出したグロテスクな生き物が現れた。
 「あいつらはきれい事ばかりで自分では何もしない、信じたってだめなんだよ」またそう言った。
 「あいつらって誰、白い服を着た女の人の事」
 「そうだ」
 「あなたはあの人のお友達なの」
 「お友達か、昔はそうだったかも知れんな」
 「それならあなたも願い事聞いてくれるの」
 「おあいにくだな、俺はそんなお人好しじゃない、でもまあ条件次第では聞かないことも無いが」
 「お父さんを元の様に元気にして欲しいの、どうしたら聞いてもらえるの」
 「うーん、難しい事だな、この代償は高いぞ」
 「僕には出来ない事」
 「いや出来るよ、たった一回きりだがね」
 「どうしたらいいの」
 「お前の生きる力をもらおう」
 「なんだそんな事、うん良いよ」
 「そんな事って、生きる力だぞ、生きる力全部もらうんだぞ」
 「お父さんが元気になるんならかまわない、でも嘘じゃないよね」
 「今はこんな姿に成り下がっているけど、昔は大天使って呼ばれた事もあったんだ、俺のプライドにかけて約束は守るさ」
 「ありがとう」
 「お人好しだなお前は、俺までおかしくなりそうだ、本当に良いんだな」
 「うん」
 彼はそのグロテスクな身体で僕に巻き付き動けなくした、白い服の女の人の時のように優しいものではなく、苦しくて、痛くて、僕はこの時初めて死と言うものの恐怖を知った。
 「お母さん恐いよ、お父さん助けて」僕は思わず声を上げた。
 「止めても良いんだぜ」彼が聞いた。
 僕はキッと目をつむり黙った。
 彼の大きな口が僕を飲み込んだ。

 帰って来たお父さんは、「テト、テト」と大声で呼びながら部屋の家具を動かして僕を探した、そして棚の物も全て出していった、ついに物陰に隠れていた蛇を見つけた、その瞬間お父さんの顔は真っ青になり、それからすぐに真っ赤な鬼のような顔になった、両手の拳を握り締めぶるぶると身体を震わせた、お父さんは直ぐに彼を捕まえて庭へ行き彼の頭をつぶすと腹を割いて僕を取り出した。
 その時雲の間から光が射して輝く亜麻布を身にまとった人が降りて来た、その人の顔は眩しくてよく見えなかったが、この人が白い服の女の人が言ってた「あの方」なんだ、そう思った。
 その人は僕と彼の心を手の平にすくい上げると雲の間の光の道を登っていった、光る雲の中で彼は醜い蛇の姿ではなかった。

 お父さんは僕の身体を水で洗い、綺麗に拭き取ると真新しい白い布に寝かせた、そこには今までで一番綺麗な姿の僕がいた。
 お父さんはすずめが良く集まるグミの木の下に僕の身体を埋めた、そして小さな十字架をつくり立ててくれた、十字架の前に僕の大好きなりんごのゼリーとむきアワをおいた。
 お父さんはこれらの事全てをてきぱきとこなした、そして全てを終えると一つ大きくため息を吐いた、奥さんは何も言わずじっと見つめていた。
 部屋に戻ったお父さんはとても疲れたようにドサリとその身体をベットに横たえた、そしてうつ伏せになると枕に顔を埋め獣の唸り声のような嗚咽を漏らした、僕のために声を立てて泣いてくれた。
 お父さん大好きだ、僕は本当に幸せ者だと思った。

 僕は彼に聞いた「どうしてすぐ逃げなかったの、あんな所にいたら見つかっちゃうのに」
 彼はしばらく黙っていたが「お前との約束のせいだよ」そう言った。
 「僕との約束、どう言う事か分からないよ」
 「最後まで手間の掛かるすずめだ、いいか、あのまま俺がいなくなったらまずいだろう」
 「どうしてまずいの」
 「お前がお父さんを捨てて逃げた、とそう思ったらお父さんはますます悲しむだろう、お父さんをお前の優しさに逃げ込まず強く生きる様にするにはこうするしかなかったんだよ」
 「それで殺されることを選んだの」
 「悪魔には悪魔なりのプライドってものがあるんだよ、おチビちゃんには分からないだろうけど」
 「おチビちゃんじゃない、テトだ」
 「そうかテトか、それは悪かったな」
 「でも僕のためにごめんね」
 「まったく厄介な事に首を突っ込んでしまった、この後もっと厄介な事が待っている」
 「何があるの」
 「おチビ、あ、テトだったな、テトは心配することは無い、俺が天使に戻されるってだけの事さ」
 「よく分からないけど悪い事なの」
 「悪いって言えば悪い、良いって言えば良い」
 「なんだか難しいね」

 その日の夕方、帰って来た兄ちゃんすずめはその異変を感じ、窓にとまってテトのいなくなった部屋をしばらく見つめていた、そして部屋には入らず西の光る雲に向って飛び立って行った。

小さなすずめのくれた大きな愛の物語 完。
19/11/05 09:43更新 / 司門君

■作者メッセージ
 物語ですが、これは私に有った現実の出来事です。

 テトと過ごしたのは50日足らずでしたがその日々の事は鮮明に覚えています。

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