ポエム
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秋雨滲滲
秋雨珊珊と降り続いて

アスファルトの道を艶やかに潤す

車に踏まれたのかアカテガニ

左のハサミと足三本をなくし

それでも残った赤いハサミを開き

精一杯高く振り上げて私を威嚇する

彼の飛び出した目玉は炎に燃え

小さな頭脳には無限の怒りと恐怖が渦巻いていた

もし今日雨が降らなければ

秋の雨がこんなに優しくなければ

いつもの用水路を離れ

こんな裏通りにまで来る事もなかったろうに

いっそあの時一思いにつぶされていれば

不自由な身体で必死に逃げ回らなくても良かったのに

彼の赤く怒った甲羅をつまみ

用水路の草むらに放した

失くしたハサミはやがて生えて来るだろう

それまで彼が生きていればの話だが

自分のテリトリーを出た彼が

幸運にもその先の小川を見つけたなら

彼は英雄にもなれたかもしれない

このまま生き延びて次の秋に

大小不揃いのハサミを見せながら

仲間に自慢げにこの話をしているかもしれない

気まぐれな空は薄墨を散らし

秋雨滲滲と降り続いている
19/10/16 19:29更新 / 司門君

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