ポエム
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銃(長いです)
「今日は朝から冷えるね」
後ろから声をかけられた。

「ああ、お疲れ様です。そうですね、カイロが手放せません」
私はポケットに手を入れていた。
夕方の空をなんだか久しぶりに見たな、と私は思った。

「最近はどうだい。うまく行ってる?」
「どうでしょうか。そうでもない気がしますね。あなたはどうですか?」
「よくぞ聞いてくれた。なんと驚くべき大転換があったんだよ」
「おお!それはどんなものなんですか?」
しばらく歩いてから、私達は近くのベンチに腰掛けた。

「僕はこの現象について、ずっと『戦い』だと考えていた」
「それはつまり、違う解釈を考えついたという意味ですか?」
「そうだ。けれど、僕に対しては常に同じ面ばかり向けていたのかもしれないし、あるいはその現象がもたらす影ばかり見ていたのかもしれない」
「持って回った言い方をしますね」
「申し訳ない。これには理由があるんだが、気にせず聞いてほしい」
「構いませんよ」

「例えば、二人はそれぞれ一丁の拳銃を腰から提げていたとする。その時、その引き金に指はかかっているだろうか?」
「戦いについてですね。かかっている事もあるでしょうし、そうでない事もあるでしょう。違いますか?」
「いや、その通りだ。だけど実は、それらは本物の銃ではない。それをお互いに自分の物だけ知っている」
「偽物をぶら下げて、脅迫に使うのですね」
「まあ、大抵はそうだろう。単に趣味としてコレクションしている人もいるとは思うけどね」
「では、なぜ二人は銃を持っているのですか?」

私の質問に少し考えてから、彼はこう答えた。

「それは人を撃てるからだ。いや、実際に使う必要はない。撃てる力が必要なだけだ」

そう言うと、彼は右手を握りしめたあと、親指と人差し指をL字に広げてみせた。
その長い方の指は、今、私に向けられている。

「なんのための力ですか?」
「それは、相手の心を動かすためだよ」
「恐怖で?」
「いや、もっと単純なことさ。そして最も大切なのは、一度引き金を引いてしまったら、もうその心は動かせない、という事」

私は、彼がとても恐ろしい話をしていたことに、ようやく気が付いた。

「偽物の銃でも、死んでしまうのですね」
「うん。だから僕は銃を撃たない」
「そもそも持っていませんよ」
「違うんだ。……ほら、今だって君は見ているんだ……。ただ、僕には影が見えていて、君はその光の中にいるだけなんだよ」
その時の彼はもう、指をピストルの形にはしていなかった。

「比喩が多くて解りません。だけど、直接話してはいけない。そういう事ですか?」
「ああ……。それに、この転換に至たれたのは、君のおかげなんだ」
「…そんな事、何かしたでしょうか?」
「誰だって皆、自分の事は見えないものさ。あの時、初めて光が見えた。あれは驚いたな。声が遅れて届いたよ。何故こんな簡単なことに、と思ったよ」
「よくわかりませんが、喜んで頂けたのなら良かったです。それで、あなたはその偽物の銃をどうするのですか?」


外はますます寒くなってきたようだ。 それでもポケットの中は温かかった。
悲しそうな目が私を見た。そして私はそれを見た。

「ずっと隠して生きていくしかないだろうね」
「そんな……。捨てることはできないのですか?」
「残念だけど、どうやら出来そうにない。隠すので精一杯だ」

「どうしてそんなものを持ってしまったのですか?」
「答えはきっと、人と生きるためだろうね。そして多分この出来事は、何も僕だけに起こる話じゃない」
「そこには私も含まれますか?」
「ああ、かも知れない。そして気に病まないで欲しいんだけど、その攻撃で、僕はボロボロになってしまったんだよ」

「そんな……、ごめんなさい。私に何かできる事はありますか?」
「そうだね。これが僕にとっての結論になるんだけど……。またいつか僕と会ってほしい」
これまでの話と比べて、その結論はあまりにシンプルに思えて、私は笑ってしまった。
「もちろんです。今度はもっとはっきり教えて下さい」
「ああ、そうできる日が来れば素晴らしいね」

そう告げるとすぐ、彼は立ち上がり続けて口を開いた
「握手をしよう。こんな時、人は握手をするんだよ」

けれど私は、それに応じることができなかった。
「ごめんなさい。それはできません」
「そうか……、それは残念だ。さようなら」
「さようなら」

なぜなら私はポケットのなかで、
ずっと拳銃を握っていたからだ。
19/07/07 01:54更新 / アンタレス

■作者メッセージ
長いです。短編小説かも知れません。

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