ポエム
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瞬く間
どこかへ行ってしまいたい。そう思う事が増えたのは、ここ数年の話。
もっと遠くへ。もっともっと遠くへ。地球も、太陽系も、銀河すらも超えて遠くへ。
そんな風に、常日頃思う。
それでも世界は、宇宙は、今見えている景色の何倍も何十倍も広く大きくて、俺にはとても届かない次元の話だった。

寝不足で働かない頭を無理やりに動かし、制服を着て学校に通う。
そんな毎日の中で乗る電車と、そこから見える景色は、いつも俺を絶望させる。
遠くへ行きたい。
そんな願望ひとつ叶わない世界で見る夢は、どこまでも色褪せて見えた。

理由なく何かを強く願うことがあるのは、おかしいことのように思える。
特筆するような理由もなく、けれど叶えたい事がある。
そんな矛盾したような、優先順位をつけるとすれば最下位の、けれどそれでも強い思い。

抱えて燻っている。
今見える景色が全てでない事。
今見える景色が広くはない事。

遠い遠い、世界や宇宙や銀河の事。
どんな景色が見えて、どんな温度を感じて、そして俺はそれに、どんな思いを抱くのか。

知りたい。
遠くへ行きたい。
逃げ出したいわけでも、ここが嫌いなわけでもないけど。

やがて俺は成長する。
心の奥底に、その思いを閉じ込めようとする。
禁忌にでも触れるかのように、外を見なくなる。
下ばかりを向いて歩く帰り道は、とてもくすんで見えた。

展開も読めない。
息もつけない。
そんな漫画やドラマに、見入ってしまうように。

常識も通じない。
声も通らない。
そんな広い遠くを望むのは、当たり前のことのように思える。

夢ばかり見て歩く道。
くすんで見えるコンクリートの道。
俺の思い描く遠くには、そんなものはなかった。

軽やかに歩を進めることも、力強く地面を踏み締めることも出来ずに。
長い長い旅路を、何かに押し流されるようにゆっくりと。
流れ流れていくことだけを、夢見ているのに。

今日も立ち止まっても、何にも起こりはしない。
遠くへ。遠くへ。
暖かくも寒くもない、色も匂いもない、遠くの世界へ。

自分も、そのどこかとの繋がりを失って、分からなくなってしまうどこかへ。
想像できるだけ想像してみても、何も起こらない現実から目を背けるように。

俺の中の遠くは実体化されていく。
混じりけのない、透明な空間。
その真ん中で、同じように透明な俺は何を思うのか。

知りたい。
遠くへ。
行きたい。
遠くへ。

また、空を見上げて思う。
終わりがないと思っていた遠くは、結局は俺の中で収束する。

満足できてしまう。
でも、けれど、それは。
終わりのないどこかへ行くためだけの、終わりのない想像は。

俺だけを満たす、俺だけの為の想像は。
やがてそのどこかへ、線を引いて連れて行ってくれる気がする。

どこだろう。
どんな所だろう。

俺はまた想像する。
俺の中で、遠くを。
どう思うだろう。
辿り着いた先で何を思うだろう。

見当外れで段違いの、知らない世界があるのだろうか。
また別の、別のような顔をした、知っている世界があるのだろうか。

行きたい。
遠くへ。
知りたい。
遠くを。

暖かくて寒い、色も匂いも鮮明な、遠くの世界へ。

自分だけを執拗に強調する、自分だけの世界へ。
透明感のない、真っ黒な世界。
その真ん中で、強調された俺に、どんな感情を抱くのだろう。

届かない、届かない世界への想像は。
きっとその想像だにしない世界より、大きいに違いない。
価値があるに違いない。
少なくとも俺にとっては、そうであるに違いない。

遠いどこかを妄想する旅は、いつだって俺を満たす。
瞬く間に、どこへでも行ける旅。
瞬く間に、どこまでも行ける旅。

想像は尽きない。その証拠に今だって、俺の頭の中にはまた、新しい遠いどこかが更新されている。
19/09/22 01:32更新 / セブンスななほし

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