ポエム
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夏を恋しいうた

夏を、ひどく恋しく想っていた。
追想。まとわりつく熱に鼓膜を刺すセミの声。歩く度に水が外に逃げようと、離れられない肌を這いずり回っている。人の故郷は海だと思うくらい、永遠と続く青を、いつも望んでいる。
轟音。陽の灯る細道に人を詰め込んだ。忙しない声と世話しない話が止めどなく溢れている。地獄があるならこんな感じだ、と呆れたが、黒いキャンパスに上げられた色鉛筆は好きだった。
夕立。土を抱き締めた匂いがする。地中のものなのに人は、水から湧き出る雨の匂いと形容する。「この匂い、ペトリコールって言うんだよ」。隣にいた君が笑う、笑う。
望郷。夢見た青に身体を浮かべたら、君が青を振り掛けてくる。顔に掛かったそれは、食卓で並べられる食物の凝縮だ。「不味い」、と舌を出せばやはり君が笑う、笑う。
離別。

夕立も、夏祭りも、海も、そして、鮮やかな青も、緑も、何色も。今はない。どこにも、どこにも、きみが、みえない。夏を想っていた、
きみを、想っていた。


19/04/24 09:59更新 / 柚子色

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