ポエム
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彼女より月が綺麗に見えたなら
「自分の相手より月の方が綺麗に見えたら……。別れ時かもな」

親父と最後に交わした言葉が、ここ最近頭を埋めている。

まったく、なんて遺言だよと思っても、一旦気になりだしたら拭えない。

当然そこには理由があるわけで、そして、当然思い当たるから理由があるわけで。

あなたと夜に出歩くのが嫌なんじゃあなくて。

あなたと月を見るのが嫌なんであって。

単純な話、僕は最近月恐怖症なのであって。

お互い忙しさにかまけての倦怠期なんて軽いニュアンスでやり過ごしてはきたけれど、いよいよそれだけの自己解釈なんてものは自己欺瞞でしかないことに気づくに至っても、あなたはこうしてレストランを予約するなんて、多分危機感からくる改善の兆候を探索する行動に出てるのに、僕は臆病な二の足三の足を踏んで何もできずにいる始末。

ビルの陰から星も見えない夜空に光を当てて、控え目なのかいじらしく自己主張する月よ。

せめて店に着くまでは顔を出さないでくれ。

いや、僕はいつもお前のことを綺麗だと思っているよ。「綺麗だな」なんて口にも出している。だから、顔を見せるにしても、彼女よりも下手なメイクでお願いする。取り返しのつかなくなった厚化粧でもかまわない。とにかく、今夜の彼女は綺麗なんだ。だから、それよりは綺麗に見えないことを心より願ってしまう。

僕の願いをかなえてくれるのならば、これからは彼女の次に多く褒め讃えよう。

どうか、そのあたりで手を打ってくれ。

お前を憎みたくはないからね。
19/11/02 22:08更新 / 九丸(ひさまる)

■作者メッセージ
散文詩に想いを込めて。
よろしくお願いいたします。

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